
■建物が余る時代、何を残すか:keyword■
先日、ガーデンデザイナーの横山裕幸氏のお父さんがなさっていた、白馬のペンションに行って来ました。
「ひとつの鞘の中で、仲良く」という思いを込めて、フランス語で「アルコベール」を、館の正面に掲げていました。
すでに、このあたりから、ただものではない、と感じられます。
けっして、蓄財があってこのペンションを始められたのではなかったと伺いました。60歳になって、一家を支えるために、暮らしのために、このペンションを作られ、10数年営まれ、その後をここで終えられたそうです。
空間の隅々まで、彼のライフスタイルが行き渡っています。調理や食事、お酒、音楽、リビングでのくつろぎ、庭の手入れに至るまで、その空間の隅々までが、彼のライフスタイルがかおる物品や、しつらえによって、みごとなハーモニーを奏でています。
建物の外観も、庭の雰囲気もすべて、彼のライフスタイルを感じさせるのです。
生活の道具や、飾りつけのほとんどが彼の手作りだそうです。それが、「見て!見て!」という、よくある手作り感を、全く感じさせません。ただただ、彼のライフスタイルを髣髴とさせているに過ぎないのです。
横山氏によって、よく掃除はされていますが、数年ほとんど使われていない空間です。
しかし空間の威力は全く衰えていません。
この館に入れば、皆このライフスタイルに浸ろう、日常こういうスタイルとは縁遠い暮らしをしていたとしても、ここでは、自然体で、このライフスタイルに身をゆだねたい、となります。
人が、あるいは家族や組織が、何十年もかけて、ある建築やその周りの庭などの中で、徹底したライフスタイルを繰り広げ煮詰めてゆくと、そのライフスタイルの染み付いた建築は、建築物の「物」を超えた「空間(世界)」を誕生させているようです。
日本全国、建築はどんどん余ってきています。余った建築をどのように活用しようか、と様々に考えられています。建物を面積のあるスペースとしてとらえ、不動産的に活用する方法もあるでしょう。
しかし、そんなに沢山の余ったスペースを不動産的に活用することは不可能と思われます。
もしかすると、その建物が、訪れた時に、隅々まで行き渡っているライフスタイルを感じさせる建物であれば、
建物の面積を活用するのではなく、そのライフスタイルを大切に継承することが、次世代にとって最も大切な資産になるのではないか、と思うのです。そこにお住まいだった方もそうした運用を望まれていた、と伺うことが多くなってきました。
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